先日無料配布BGMに追加した「妖」という曲。
実はこの曲はたった一つの音源で、かつ驚くほど簡単に作られています。それがSpitfire Audeio社の「ALBION NEO」。今回はそのALBION NEOと、「妖」がどのように作られたかを紹介してみたいと思います。
ALBION NEOはSpitfire Audio社のシネマティック音源・ALBIONシリーズの一つ。繊細で美しいシネマティックなサウンドをコンセプトにした「ALBION – VOL.2 / LOEGRIA(現在は廃盤)」の後継者ともいうべき音源で、チェンバーサイズのオーケストラや、シンセ、テクスチャーなどが収録されています。
オーケストラ楽器はこのように全てセクションごとに収録されています。音質は元々評価の高いSpitfire Audioだけにハイレベル。手早く小編成のオーケストラを立ち上げられる一方、ソロ音源の収録は一切無いので別の音源を用意する必要があります。またNEOは小編成、繊細なサウンドに特化しているので、Brassも穏やかな音色です。迫力のあるサウンドが欲しい場合は、ALBION ONEの方をオススメします。
それでは「妖」の制作に移ります。今回は出来るだけプリセットの音をそのまま使っていきます。
まず立ち上げたのが「Brunel Loops」。ALBION NEOにはハイクオリティなシンセループやパッドも多数収録されていますが、このBrunel Loopsはプリセットに含まれる複数のループをまとめて、または単体で鳴らす事が出来ます。今回使うのは「Nighthawks」という、どことなく和風のパーカッションと雰囲気を含んだプリセット。
Brunel Loopsは各プリセットごとにいくつかのループ収録されており、各オクターブのCを弾くとまとめて、D以降を弾くと単体のループを演奏できます。まずはCを弾いてみましょう(C2→C1→C3→C4の順です)。
もうこれだけで曲になってますね!が、必要なループだけを取り出すことも出来ます。今回はこの「Nighthawks」のC2のループをバラして使います。単体に分けるとこんな感じです。
D2→E2→F2→G2→A2の順に再生しています。単体で使う場合、音階で演奏する事が可能です。「Nighthawks」にはオクターブごとに微妙に異なる7パターンのパーカッションがありますが、これを全て使えます。
C1→D1→E2→F2→G3→A3→B4→C5の順です。トラックを分ける必要がありますが、まとめて再生するよりも単体の方が使い勝手が良いです。「妖」では以下のように打ち込みました。
これを土台として(土台である程度雰囲気は完成されてますが…)、ここに色々と音を足していきます。次に足したのがPadです。
「Stephenson’s Steam Band」はオーケストラのサウンドを素材にして作られたシンセサイザー。左右二つの音色を合わせてサウンドを作ります。Spitfire Audioの「eDNA」というシンセ音源のエンジンが使われており、鍵盤を適当に押さえただけで世界観を作り出してしまうようなサウンドが多数収録されています。今回使ったのは「Pinwheel Galaxy」という音色。F1とC2の2音を曲の全体を通して鳴らせ続け、ザラついた雰囲気を与えてみました。
そしてもう一つ、「Stephenson’s Steam Band」から「Mother Plucker」という音色を足します。こちらはピチカート奏法から作られた音だと思われますが、どことなく琴のような雰囲気も持っており、中盤のメロディーを担当してもらいます。
少々再生が不安定な音色なのですが、この曲には合っているのではないでしょうか。音量もあえて揃えませんでした。
「Stephenson’s Steam Band」からはさらにもう一つ、「Sombrero」を。パッドとしてもリードとしても使えそうな音色で、中盤のメロディーの裏を支える役割です。
続いてはストリングスですが、前述の通り編成の異なるセクションが二つ(Band A、Band B)、また別のプリセットとして特殊な奏法が収録されています。
今回はStrings Aと、この特殊な奏法(Indivisual articulations)から「Long 5th Bend Up」を使ってみます。基本的な奏法はStrings A、Bの中に大体収録されています。
ストリングスは2つのトラックをまとめるとこのような感じに。曲の最初の方に出てくる「Long 5th〜」は別トラックです。Strings Aは音色内で左右にパンが振られているため、今回は1トラックでそのまま作ってみました。本格的にストリングスパートを作り込むのであればやはりパートごとにトラックを分けるべきかもしれませんが、逆に言えば一つ立ち上げるだけで良いのでスケッチ用としても活躍できるのではないでしょうか。
最後に、中盤のメロディが終わったところが少し寂しいので、ここにリズムを足します。「Brunel Loops」の「Sun on the Horizon」というプリセットの中のリズムのループを単体で使います。
これで「妖」がの打ち込みが終わりました。この時点で一旦曲を書き出してみます。
この時点ではトラックごとに音量とパンを調整しただけで、EQ、リバーブ、ディレイ、リミッターなどのエフェクトを一切かけていません。それでもここまで雰囲気を出すことができます。
DAWの画面はこんな感じに。わずか7トラックです。これをしっかりサウンドメイクし、ミックスしたものが無料配布のコーナーにある「妖」になります。
最後に、ALBION NEOについて再度まとめてみます。ALBION NEOはSpitfire Audioならではの高品質なオーケストラサウンドとシンセサウンドを収録したシネマティック音源であり、この音源一つで世界観を作り出すことが出来ます。いくつかプリセットを立ち上げるだけで簡単に楽曲が作れるため、スケッチ用としても有用な音源となっています。ソロ楽器の収録がない事、ブラスが静かな音色しかないという部分は他の音源でカバーする必要がありますが、元々ALBION NEOは繊細なサウンドがコンセプトのため、納得して購入される方も多いのではないでしょうか。総じて、多少の弱点を補って余りある魅力を持った音源だと言えます。
Spitfire Audeioのサイトで購入するのが安いのですが、日本語のサポートが欲しい方はSONICWIREでの購入をオススメします。高品質なシネマティック音源・ALBION NEOをぜひチェックしてみて下さい。そして、無料配布BGM「妖」のダウンロードもよろしくお願いします。